サムゲタンだけじゃない。韓国にも「土用の丑の日」がある ─ 亀尾のチュオタン定食が想像以上だった話

サムゲタンは知っていても、チュオタンを実際に食べたことがある方は多くないかもしれません。先日、家族で韓国・亀尾(クミ)を訪れた際に立ち寄ったチュオタン専門店で、思いがけず充実した食事に出会いました。

亀尾は慶尚北道(キョンサンブクド)の北部に位置し、大邱(テグ)から車で約30分、ソウル~釜山間の京釜高速道路のほぼ中間地点にあたる街です。街の西側には1970年に韓国初の道立公園として指定された金烏山(クモサン)道立公園があり、その山のふもとに向かう道沿いに、今回訪れたイロジョンの亀尾金烏山直営店があります。南亀尾ICから車でわずか5分の場所です。

イロジョン亀尾金烏山直営店の基本情報・アクセス・駐車場

項目内容
店名イロジョン 亀尾金烏山直営店
住所慶尚北道 亀尾市 朴正煕路 32
営業時間毎日 11:00~21:00
ブレイクタイム15:30~17:00
ラストオーダー20:30
定休日韓国の主要祝日のみ
駐車場店舗前に無料駐車場(約60台分)
座席個室(10~30名対応)、一般テーブル席
アクセス南亀尾ICから車で5分 ・ 朴正煕生家から徒歩9分 ・ 亀尾駅から960番バスで尚毛高校停留所下車、徒歩約5分(250m)
韓国・亀尾にあるチュオタン専門店イロジョンの建物外観

イロジョンの特徴 ─ メシマコブ入りチュオタン

イロジョンが他のチュオタン専門店と異なるのは、メシマコブ(メシマコブタケ)という薬用キノコをチュオタンに取り入れている点です。メシマコブは韓方(ハンバン=韓国式の漢方医学)で古くから使われてきた素材で、イロジョンによると、これをチュオタンに組み合わせたのは韓国で同店が初めてとのことです。

イロジョンのフロントデスク奥に設置されたメシマコブエキス用の薬湯器(ヤクタンギ)

フロントデスクの奥には、韓方の煎じ薬を作るための伝統的な薬湯器(ヤクタンギ)が置かれており、ここでメシマコブのエキスを抽出してチュオタンに加えているそうです。

イロジョンは現在、密陽(ミリャン、慶尚南道)、この亀尾店、そして大邱・達城郡の3店舗を展開しています。

チュオタンとは?韓国版「土用の丑の日」に食べるどじょうスープの魅力

日本では夏バテ対策に「土用の丑の日」にウナギを食べる習慣がありますが、韓国にもよく似た風習があります。伏日(ポンナル) と呼ばれる韓国の暦上でもっとも暑い3日間(初伏・中伏・末伏、例年7月中旬~8月中旬)に、スタミナのつく料理を食べて夏を乗り切るというものです。代表的な伏日の食事としてはサムゲタン、ペクスク(鶏や鴨を丸ごと煮込んだ鍋料理)、そしてこのチュオタンがあります。

チュオタンは、どじょうを使ったスープです。古くから韓国の農村地域で、田んぼや小川に豊富にいたどじょうを使って作られてきた庶民の補養食(ポヤンシク=体を整える滋養食)で、良質なタンパク質やカルシウムが豊富に含まれています。

日本にも浅草の「どじょう鍋」がありますが、チュオタンは調理法がかなり異なります。特に、地域によってスタイルが大きく変わるのが特徴です。

地域スープの特徴主な調味料・香辛料
ソウル・江原道ピリ辛で赤い色合いコチュガル(唐辛子粉)、
コチュジャン(唐辛子味噌)。
どじょうの姿がそのまま残ることも
慶尚道(釜山を含む)澄んだスープパンア(和ハッカに似た香草)、
サンチョ粉(日本の山椒に近い香辛料)
南原(全羅道)とろりと濃厚、おかゆのような質感テンジャン(韓国味噌)、エゴマの実の粉、チョピ(花椒に似た痺れる香辛料)

イロジョンは南原(ナムォン)式です。どじょうを丸ごと細かくすり潰してスープに溶かし込むため、魚の姿は一切見えません。初めての方でも見た目に抵抗を感じにくい調理法です。

なお、南原式に欠かせないチョピという香辛料は、花椒のような痺れと柑橘系の香りがあります。初めて食べる場合は、少量から試すか、入れずに食べるのがおすすめです。

注文した補養定食の内容と価格

今回は大人2人と幼児1人の3人で訪れ、以下のメニューを注文しました。

メニュー価格
補養定食
(チュオタン+焼き魚+ウコンご飯+おかず一式+人参どじょう天ぷら付き)
₩18,000(約1,895円)/1人前 ※2人前から注文可
人参チュオモドゥムティギム
(高麗人参とどじょうの盛り合わせ天ぷら)
₩12,000(約1,263円)
ナクチハンマリ ヘムルパジョン
(タコ丸ごと一匹入りの海鮮チヂミ)
₩20,000(約2,105円)

補養定食には、チュオタンのほかにサバの塩焼き、ウコン入りご飯、10種類以上のおかず(パンチャン)、そして人参どじょう天ぷらが基本セットとして含まれています。天ぷらが最初から付いてくると知らずに別途注文してしまいましたが、量が多かったので残った分は持ち帰り用に包んでもらえました。

チュオタンや黒ヤギのスープが苦手なお子さん向けには、ミヨックク(ワカメスープ)やトンカツも別途注文できます。

イロジョン亀尾店の一般客席と個室の様子。奥にキッズスペースが見える

個室に案内していただいたおかげで、まだ小さい子どもが多少騒いでも周囲を気にせず食事ができました。部屋からキッズスペースが見える位置だったのも、スタッフの配慮を感じるところです。

実食レポート

イロジョンの補養定食で提供されるおかず(パンチャン)一式。チュオタン到着前の様子

まず、テーブルいっぱいに広がるおかずの量に驚きました。チャプチェ(春雨の炒め物)、カクテキ(大根のキムチ)、アサッキコチュムチム(青唐辛子の和え物)、サラダ、スユク(茹で豚のスライス)など、10種類以上が並びます。₩18,000(約1,895円)の定食でこの品数は、正直、予想を超えていました。

イロジョン亀尾店のセルフサービスおかずコーナー。白ご飯やフルーツが並ぶ

テーブルのおかずに加えて、店内中央にはセルフサービスのコーナーがあり、白いご飯やフルーツ、追加のおかずを自由に取ることができます。ウコンご飯の黄色い色合いが気に入らないお子さんがいる場合は、ここで普通の白ご飯を用意すると安心です。

イロジョン亀尾店の補養定食フルセット。石鍋のチュオタン、サバの塩焼き、ウコンご飯、おかず一式

石鍋のチュオタンとサバの塩焼きが加わると、補養定食の全体が完成します。

チュオタンの味わい

イロジョンのメシマコブ入りチュオタン(どじょう汁)のクローズアップ。石鍋で煮立つ濃厚なスープ

石鍋でグツグツと煮立った状態で運ばれてきたチュオタンは、とろりと濃厚で、スープというよりはおかゆに近い質感です。どじょうが完全にすり潰されているため、見た目にも口当たりにも魚の存在感はまったくありません。テンジャン(韓国味噌)とエゴマの実の粉が生み出す深いコクが印象的で、魚の生臭さは一切感じませんでした。

テーブルにはおろしニンニク、刻み唐辛子、サンチョ粉(山椒に近いピリッとした香辛料)が備えてあり、お好みで味を調整できます。少しずつ加えながら食べると、一杯で何通りもの味が楽しめます。

イロジョンの補養定食に付くサバの塩焼き。レモンが添えられている

セットのサバの塩焼きは、皮がパリッと焼き上がり、レモンが添えられていました。ウコンご飯との相性がよく、子どもにも食べやすいおかずです。

サイドメニュー

イロジョンの人参どじょう盛り合わせ天ぷら。高麗人参とどじょうの天ぷらが皿に盛られている

人参どじょう盛り合わせ天ぷら(₩12,000/約1,263円)は、高麗人参のほろ苦い風味が衣の間からふわっと香り、大人の味覚に合う一品です。一方、どじょうの天ぷらはカリッとした食感で、子どもでも抵抗なく食べられました。醤油ベースのタレにつけるとさらに旨味が引き立ちます。

イロジョンのタコ丸ごと一匹入り海鮮チヂミ(パジョン)

海鮮チヂミ(₩20,000/約2,105円)は、タコが丸ごと一匹入った薄焼きタイプです。一般的な厚めのチヂミとは異なり、生地が薄い分だけネギとタコの味がしっかり感じられ、パリッとした食感も楽しめます。タコが柔らかいので幼児でも無理なく噛めました。チョジャン(酢コチュジャン=酢と唐辛子味噌を合わせたタレ)につけると、さっぱりとした酸味がアクセントになります。

マッコリ(韓国の濁り酒)のおつまみとしても、家族で分け合うサイドメニューとしても使える一品です。

食後のセルフドリンクコーナー

イロジョン亀尾店の無料セルフドリンクコーナー。スジョンガ、カボチャシッケ、コーヒー、カンジョンが並ぶ

食事を終えて出口付近に向かうと、セルフサービスのドリンク・デザートコーナーがあります。スジョンガ(シナモンと干し柿で作る韓国の冷たいパンチ)、タノバクシッケ(カボチャ入りのシッケ=韓国の甘い米飲料)、ホットコーヒー、そしてカンジョン(もち米をはじけさせて蜜で固めた韓国のおこし)が、すべて無料で用意されていました。氷入りのカップも別に置いてあり、アイスコーヒーを作ってテイクアウトしているお客さんも多かったです。この価格帯の食堂でここまでのサービスがあるのは、なかなか珍しいと感じました。

子連れでも安心の設備

イロジョン亀尾店のキッズスペース。入口近くに設置された子ども用プレイエリア

入口近くに小さなキッズスペースが設けられており、食後に子どもを遊ばせている間に大人がゆっくりコーヒーを飲む、という使い方ができます。個室の位置もキッズスペースが見える場所に配置されているので、小さなお子さん連れの家族にとっては安心感のある構造です。

まとめ ─ 金烏山のふもとで過ごした一日

食事のあと、金烏山道立公園の方へ車を走らせました。山のふもとには小さな遊園地があり、大型テーマパークのような混雑とは無縁の、ちょうどいい規模感で子どもと過ごす午後にぴったりの場所でした。

金烏ランドの全景(大観覧車、回転木馬など)

遊園地の詳しい情報は別の記事にまとめています: 金烏ランド(亀尾)|消えゆく韓国の地方遊園地がまだここにあった

さらに先へ進むと、金烏山ケーブルカー乗り場があります。山の上からは亀尾の街並みと周囲の山々が一望できます。

チケット種別大人子ども
片道₩7,000(約737円)₩5,000(約526円)
往復₩12,000(約1,263円)₩7,000(約737円)

真夏に幼児を連れての登山は現実的ではありませんでしたが、ケーブルカーなら無理なく金烏山の景色を楽しむことができました。

チュオタンの補養定食でしっかりお腹を満たしてから、遊園地とケーブルカーへ。亀尾という街は、ソウルや釜山を行き来するときに通り過ぎるだけの場所だと思っていましたが、こうして実際に足を止めてみると、家族でのんびり過ごすのにちょうどいい一日が待っていました。派手な観光地ではありませんが、ふと立ち寄った食堂で出会った一杯のチュオタンが、その街の印象をまるごと変えてしまうこともあるのだと、帰りの車の中でしみじみ感じました。

イロジョン亀尾金烏山直営店 FAQ・訪問前のよくある質問

チュオタンとはどんな料理ですか?

チュオタンは、どじょうを使った韓国の伝統的なスタミナスープです。もっとも一般的な南原(ナムォン)式では、どじょうを丸ごとすり潰してテンジャン(韓国味噌)やエゴマの実の粉と一緒に煮込むため、とろりと濃厚な質感になります。魚の姿は見えず、生臭さもないため、初めての方でも比較的食べやすい料理です。タンパク質やカルシウムが豊富で、韓国では古くから夏バテ対策の補養食として親しまれています。

イロジョンのチュオタンは他の店とどう違うのですか?

イロジョンでは、メシマコブ(メシマコブタケ)という薬用キノコのエキスをチュオタンに加えています。同店によると、メシマコブをチュオタンに取り入れたのは韓国で初めてとのことです。店内に設置された伝統的な薬湯器(ヤクタンギ)でエキスを抽出し、すべてのチュオタンに使用しています。

イロジョン亀尾店の補養定食はいくらですか?

補養定食は1人前₩18,000(約1,895円)で、2人前から注文可能です。セットにはチュオタン、サバの塩焼き、ウコンご飯、10種類以上のおかず、人参どじょう天ぷらが含まれます。そのほか、海鮮チヂミ(₩20,000/約2,105円)や人参どじょう盛り合わせ天ぷら(₩12,000/約1,263円)なども別途注文できます。

チュオタンの地域ごとの違いは何ですか?

韓国では地域によってチュオタンの作り方が異なります。ソウルや江原道ではコチュガルやコチュジャンを使った赤くてピリ辛のスープが一般的です。慶尚道(釜山含む)では澄んだスープにパンアやサンチョ粉を加えます。南原(全羅道)式はどじょうを完全にすり潰してテンジャンとエゴマの実の粉で煮込んだ濃厚なスタイルで、イロジョンはこの南原式を採用しています。

イロジョン亀尾店は子連れでも利用できますか?

はい。個室が用意されているため、小さなお子さん連れでも周囲を気にせず食事ができます。入口近くにキッズスペースもあり、子ども向けメニュー(ワカメスープやトンカツ)も別途注文可能です。セルフサービスコーナーでは白いご飯やフルーツも取れるため、幼児の食事にも対応しやすい環境です。

大邱やソウルからイロジョン亀尾店へのアクセスは?

大邱からは京釜高速道路を利用して車で約30分です。南亀尾ICを出て約5分で到着します。ソウルからは同じ高速道路を南下して約3時間の距離です。公共交通機関を利用する場合は、亀尾駅(鉄道)から960番バスに乗車し、尚毛高校停留所で下車後、徒歩約5分(250m)です。

伏日(ポンナル)とは何ですか?

伏日(ポンナル)は、韓国の暦でもっとも暑い3日間(初伏・中伏・末伏)を指し、例年7月中旬から8月中旬にかけて訪れます。日本の「土用の丑の日」に相当する風習で、この時期に韓国ではサムゲタン、チュオタン、ペクスクなどのスタミナ料理を食べて夏の疲れを癒す伝統があります。チュオタンは年間を通じて食べられますが、伏日の時期と秋から冬にかけてが特に人気です。

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